天狗(民話伝承)

鈴木達志

2007年05月01日 11:13

【宇久須の民話シリーズ 1】

「天狗」

昔、昔のお話です。
神田の山奥に寺沢《この辺り》という場所があり、
その地名のとおり、立派なお寺がありました。
里へ買い出しに行くには、行き帰りに半日も、かかる距離です。
里は、ほとんど雪が降りませんが、寺沢には、雪が積もりました。
そんな山深い場所に、一人の炭焼きが住んでいました。
(※現在は誰も住んでいません。昔は2、3軒の家があったそうです)

天城山から、たくさんのシシ(猪)やシカ(鹿)が寺沢に下りてきます。
ある日、炭焼きはかわいわ(傘の形をした大きな岩)へ、シカ射ちに
出かけました。
しばらくすると、スズタケの中を一頭のシカが、下ってきました。
そのとき、鉢巻をした猟師が登ってきたのが見えたので、炭焼きは
チャンスと思い、猟師に向かって大声で叫びました。

「今、そっちへシカが行くぞ!」

そして炭焼きは、その様子を息を潜めて見ていました。
おかしなことに、猟師は、シカを射つ様子がありません。
あれよ、あれよという間に、シカと猟師が、ぶつかる位置になりました。

その時、風も無く静かだったスズタケが急にざわめき、一陣の風が吹き
抜け、枯葉が空に舞い上がったかと思うと、それは枯葉ではなく、大きな
羽根を広げた化け物でした。

化け物はシカをひょいと抱えると、あっという間に山向こうへ
飛んでいって消えたのです。

炭焼きは、びっくりして、腰をぬかしてしまいました。
里の人たちに、この事を話すと皆、驚きました。

「それは猟師のように見えた、天狗様だったんではないか」

と話したということです。


現在の神田の集落(撮影は4月1日)


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